バレンタイン・キッス by AKB48

「一度は平日にAKB48に足を運び、前のほうでじっくり見てみたい…」

との願いをかなえるため、今日、会社をめずらしく定時に切り上げ、秋葉原へ向かった。多少くじ運が悪くても、平日ならきっと座って見ることができるのではないだろうか。

 8階到着18時15分。チケット売場には15人ぐらいの列ができている。よく見ると皆A4の白い紙を持っている。何やらそれに書き込んでる人もいる。聞けば今日から、これに住所氏名を書かないと入れないという。とりあえず係員からその紙を受け取り、列に並んだ。3桁の番号がスタンプされている。記入欄は住所氏名のほか、生年月日・電話番号など。ボールペンが用意されていたので、並んで立ったまま書き込む。

 100回観覧すると特典があるという貼り紙がある。これまでは半券の数でそれをカウントするとしていたのを、今日からカードを導入するとのこと。そのカードに、回数がカウントされていくのだという。

 並んで1分ぐらい経ったとき、背後で係員が声を張り上げた。

「本日ソールドアウトとなっておりますので、キャンセル待ちをしていただいております」

なっ何ー。それじゃこれ書いても入れないかもしれないってことですか! と一瞬あせったが、250番までの人は間に合っているとのこと。つまり私はギリギリセーフだったわけだ。会社でもうちょっと引き止められていたら…。エスカレーターでチンタラ登ってきていたら…。住所氏名を並ばずにテーブルで悠長に書いていたら…。

 小さなカードリーダーがチケット売場に導入されていた。千円札を出すと、売り子のおにいさんが、束で用意されているカードの一枚をリーダーに差し込む。そして渡されたそのカードは、カメラチェーン店のポイントカードのように、薄くて、裏にリライト可能な反転印字がされていた。印字項目は

  • 会員番号
  • 入会日
  • 利用日・回数
  • 今回ポイント
  • 累計ポイント
  • 購入済みの入場券の日付
  • 整理番号

である。3項目目以降が、毎回書き換えられると考えられる。会員番号は、用紙に押されていたスタンプがそのまま採用されていた。

 と同時に、今後は販売時、どこの誰が整理番号何番になったかという情報も、その気になれば主催者はリアルタイムで利用できることになる。厄介な客は抽選のとき後ろに回すとか(笑)。そこまでやるかどうかは、わからないが。

 それにしても人が多い。私のすぐ後に、ひらちれが来ていたが、個人情報を書かねば入れないと聞いたからか、それとも250番に一歩遅れたからか、列には並ばずに所在なさげな顔をしていた。結局観覧できたのかは、人が多すぎてわからなかったが。

 なんでこんなに人が多いのかと聞いたら、理由は2つだという。

  • カードが導入されるときいたので、早い会員番号を得るため。
  • 2月14日だから。

後者の理由は、それまで私にはまったく思い当たらなかった。そうだったのだ。アイドルのイベントやライブでバレンタインデーといえば、たとえそこから半月やひと月ずれていたとしても、何かしらそれに絡めたチョコ配布などのサプライズが行われるものである。ましてや今日はまさにその当日。それもまた、ほぼ毎日興行しているAKB48の強みだろうと思うが、そんな今日、何かがあると皆が期待に満ち満ちてやってくるのは当然というものだ。気がつかなかった自分がうかつだった。

 今日は、ぜんぜん「ふつうの平日」でもなんでもないのである。

 結論をいうと、サプライズは2つあった。

 歌のほうは、これまた私はうかつだった。秋元康がプロデュースしているAKB48は、いわばおニャン子の正統な後継者と言っても過言ではない。それが2月14日に、この歌をうたわないほうがおかしいではないか。当時の映像を受け取って自主練したという成果で、歌も振りも実によくできていた。見ているこちらも、つい往年を思い出して体がひとりでに動きだしてしまったことは内緒だ。

 チョコのほうは、アンコールの最後の歌をうたう前にそうステージから告知された。その時の客席の喜びようは筆舌に尽くしがたい。客は一列に並んでカフェへ出る。と、そこには長いテーブルがつなげられていて、女の子たちが並んで立っているのだ。カフェへ出る前にあらかじめ係員から

「女の子たちは五十音順に並んでいます」

と伝わっていたので、目当ての子を探すのは簡単だった。こういう細かい配慮がAKB48にはいろいろ感じられる。カードの件しかり、女性・児童席の件しかり。抽選の件もしかりだ。

 抽選では実は私は今回、非常に早く呼ばれてしまい、思いがけず、中央ブロックの最前列に座ることができた。おかげでじっくりとステージを楽しむことができたが、往年の血がどうにもさわいで、結局はあまりおとなしくステージを見ていなかったのは我ながら困ったものである。

 チョコは白い厚紙のケースに入っており、そこに今日のためだけのシールが貼られている。「Happy Valentine」「桜の花びらたち」と書かれてきれいにレイアウトされた集合写真だ。厚紙はツルツルなのでシールはきれいに剥がすこともできる。もちろん、厚紙についたままの状態で保存してもいい。こんな細かいところにも、意図してかどうか、AKB48の細かな配慮が感じられるのである。プロの仕事を私はそこに見る。