安らぎと優しさと躍動感と(早野薫)

 不思議なほど、早野薫への声援がない。ステージに一度だけ声をかけようとしたが、何と呼んでいいのかわからなかった。薫ちゃん? かおりん
 彼女のファンは、おとなしいヤツが多そうな気がする。声援が声にならないのも、そのためかもしれない。最近では歌っていても、いつもニコニコしてくれるようになった。彼女を見ているだけで幸せな気持ちになれる、その安らぎ。
 前奏、三々五々出会うシーン。大きく手を振って、満面の笑顔で、大きな口パクで
「待ったー?」
と声をかける。そんな彼女の演技はまさにミュージカルそのもの。宮澤ちゃんに
「がんばろう」
と、これまた満面の笑顔で大きく口パク。宮澤ちゃんがそれに対して、やはり
「がんばろう」
と口バクで答える。その一瞬の伝わる優しさ。そしてその前奏が終わったときだった。それまで無意識にずっと、早野薫を目で追いかけていたことに気がついたのは。
 『クラスメイト』では、歩く向きを変えるときの、一瞬の脚の残し方。よく身についた立ち居振舞いが、一片のバレエのようで美しい。止めて魅せ、動いて魅せる、彼女の演技のメリハリ。ところが、アンコールではうってかわって、誰よりダイナミックに動くのもまた、早野薫なのだ。その躍動感。デニムに包まれた、意外にしっかりした腰つきに、思いがけず女を感じてとまどってしまう(オヤジ全開モード!)。
 そんなわけで、安らぎと優しさと躍動感と。以上がきょう私に見えた早野薫の3つのアルゴパワー、じゃなかった3つの「や」だったわけですが、考えてみると、彼女の個人の見せ場というのは、えれぴょんと違ってほとんど設けられてないことに気づく。かろうじて、『クラスメイト』のソロパートがあるだけで、それも2番でははしょられてしまう。だけどえれぴょんと違って助かるのは、背が高いから、誰かのうしろで踊っていても顔が見えることだ。
 なお、今夜は薫ちゃんのミュージカル系の友達がお母さんと見に来ていたが、正直言ってAKB48の誰よりも可愛かったのは内緒である。